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休廊日は展覧会により異なります

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SSW:小倉ゆい かくも美しき、畏怖なる動物偶像

2023.07.27

2023.07.27

本日は、7月30日(日)から開催されるグループ展「SSW EXHIBITION 2023 -Moontan-」に出品される、小倉ゆいさんの作品についてご紹介いたします。

SSW2023に出品される作家さんのご紹介は、先崎さんに続きお二人目となります。
 SSW:先崎涼香 愛するものを、描く
展覧会の概要等もまとめて掲載しておりますので、ぜひ併せてご覧ください。

「月のあかり」

昨年のSSWや猫展でも作品をご出品されている小倉さん。
先崎さんと共に、SAN-AI GALLERYではお馴染みの作家さんのため、作品をご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれません。

小倉さんは油絵による作品を制作されています。
繊細なレース模様のような背景に彩られる、動物の姿。
リアルなようでありながら、その肉質は非常に柔らかく、纏うファーはとにかく緻密に描きこまれています。
1本1本描かれる毛皮の質感から、ふわふわとした柔らかさや、手からするりと滑り落ちるかのようななめらかな感触が、手にまざまざと蘇ります。
直に作品をご覧いただくと、その緻密さがより際立って、小さな画面に不思議と引き込まれるかのような心地を味わうことでしょう。

そんな小倉さんの出品予定作品「月のあかり」の制作風景をお届けいたします。

下書き〜素地描きこみ

まずはドローイング(線画)です。
どんな作品にするか、イメージを膨らませる段階から、制作がスタートします。
実際の色彩を使う前の、下書きの部分です。

ドローイングが完了したら、お次は油絵で色彩を描いていきます。

最初は、背景の凹凸部分にあたる模様を描いていきます。
素地の色は、ニュアンスのある深みがかった焦茶色です。
凹凸はどのように描いているのかと不思議でしたが、油絵の具によるものだったのですね。

動物

模様が描きこまれたら、次は動物の着彩にとりかかります。
はじめに、地肌の部分を塗っていきます。
ここで使用するのは、テンペラ※です。
(※西洋美術の中で長く使用されてきた歴史をもち、乳化作用をもつ定着材に顔料を混ぜた絵の具のことを指します。代表的なものでは卵(!)を定着材として使用します。
油絵に見られる経年変化による黄変を防ぎ、やや粘度のある特徴から筆致やマットな質感が楽しめるのが特徴です。
色彩の鮮やかさや、細かな線や、重ね塗りにも適しています。)
完成作品からは窺うことが難しいですが、肌色やピンクで着彩されています。

その後、いよいよ毛の表現にうつっていきます。
こちらも下の色から順番に。
使用するのは、もちろん、テンペラ絵の具です。

まずは毛の影色となるよう、セピア色で毛流れを作っていきます。
毛流れが描かれた後は、白以外の色の毛を描きこみます。

ここまでの工程で描かれたものが、こちら。

落ち着いた色合いのみの段階だと、アンティーク作品のような趣が感じられます。

すでに緻密に描かれた画面が窺い知れます。

ここまできたら、いよいよ白いテンペラ絵の具で、動物の毛皮を仕上げていきます。
絵の具を含ませる筆は、日本画用の面相筆(非常に細い筆で、細部を描くのに用いられる) です。
ティッシュなどで余分な絵の具を落とし、穂先を整えてから、一本一本丁寧に描いていきます。

”一本一本”と言葉で伝えるのは簡単ですが、恐ろしく細かい作業です。
毛流れを意識して、動物の立体性を損なわないよう丁寧に白い毛を重ねていきます。

「線の集積が、ファイクファーのようになって厚みが増してくるのがとても美しく、興味深い現象に思えます。」

画材の特徴を最大限に活かしながら、作品が着々と描かれていきます。

背景

動物の描き込みがある程度まで描き込まれたら、今度は背景の調整作業に入ります。

制作初期に描き入れた凹凸の模様がない箇所に、金色で装飾を描きこみます。
動物の目の部分にも、同色が塗られました。
キラキラと鮮やかな目を作り出すための、奥行きのある下地になっています。

凹凸で装飾された部分にも、鮮やかな色彩を重ねます。

「今回は月明かりをイメージしてグラデーションカラーで背景を仕上げました。
最初に入れた模様の凸凹に筆跡が引っかかって、絵具のニュアンスが面白く感じます。」

煌びやかな金と銀の色合いが、凹凸の装飾と重なりあい、厳かな雰囲気をつくりだします。
画面の上に、月明かりを連想するかのような、鮮やかなリズムが奏でられます。

一見すると、背景に色彩を重ねる単純な作業のようですが、いつもこの瞬間は新鮮な感覚を覚えるという小倉さん。

「線の集積で起こるイリュージョンや、絵具の物質感が、いつでも新鮮で美しいと思います。」

目、そして完成へ向けて

背景の描きこみが一段落したら、動物の目を入れていきます。
作品の中でもポイントとなる部分に、はっきりとした色が加わり、印象ががらりと変化しました。

吸い込まれるような赤い目が、印象的に描かれました。
目の中にも緻密なグラデーションがみてとれます。

完成まであとわずか。
ここから、さらに納得がいく状態になるまで、何度も細かい調整を加えていきます。

「全体的なバランス感、タッチの強弱など、調整を繰り返すことで、強い印象が感じられる作品となるように手を加えます。」

動物の部分が鮮やかに画面から浮かび上がるのは、材料による特徴だけでなく、根気強い描きこみによるところが大きいのでしょう。

まだ見ぬ本当の完成作品は、ぜひギャラリーに飾られた状態でご鑑賞ください!

**
先入観や固定イメージを抱いてほしくないので、歴史の中の類似作品を取り上げることは憚られますが…SAN-AI GALLERYで展示している小倉さんの作品は、いつも東方正教会におけるイコン画のような印象を強く想起させられます。
圧倒的な存在感と質感を放つ、動物のモチーフ。
落ち着いた下地の色に重ねられる、煌びやかな装飾模様と、金銀の色彩。
作品を構成する要素ひとつひとつから、厳かな雰囲気や、どこか東欧の空気感をも感じとるのかもしれません。
じっと目を凝らして作品を見ていると、細部まで描かれる綿密な表現が、独特なリズムを生み出し、どこかゾクっとする心地すら覚えます。
いわば畏怖の感情とも呼べる、不思議な魅力です。

SSWで展示される作品は小さなキャンバスによるものですが、小さな画面の中に集積された圧倒的なパワーを、ぜひご自身の目で捉え、肌感覚として体験していただけたらと思います。

SSW EXHIBITION 2023 -Moontan-
小倉ゆい 柴田貴史 瓜生剛 先崎涼香 平丸陽子 松浦カレー
2023年7月30日(日) ~ 2023年8月5日(土)
12:00~18:30 /月曜休 / 日曜12:00〜18:00、最終日〜17:00迄

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