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関川葵 滲む時をとどめて

2023.09.18

2023.09.18

本日は、9月24日(日)から個展を開催される、関川葵さんの作品についてご紹介いたします。

ガラス作家である関川さん。
普段は長野県安曇野市にある、あづみのガラス工房で作品を制作されています。

「水」「液体に滲むインク」をテーマに掲げて制作された作品は、文字の如く、形の定まらない液体の一瞬の姿を、ガラスという透明な世界に閉じ込めたかのようです。
光が反射するガラスは、形のない水そのものが留まったかのように、そっと手の中に佇みます。
透過する世界には、じわりと広がりゆく色彩。
滲みはじめた色の瞬間を、その塊がとらえます。

本記事では、今回の個展で展示予定の作品「tareru」の制作過程と、その作品に込めた想いを伺いました。

DM掲載された作品のうちのひとつ「tareru」

※ 昨年開催された個展の際にも、関川さんの作品制作についてご紹介しております。
本記事とは若干異なる制作技法についてまとめておりますので、ぜひ違いを見比べながらお楽しみください。
貴重な工房での制作風景も、動画でご覧いただけます。
→ 関川葵 個展 2022 下玉の制作〜模様づけ
  関川葵 個展 2022 成形
  関川葵 個展 2022 口の成形〜完成

「tareru」制作工程:ホットワーク

関川さんのガラス制作手法は、ホットワークによるものです。
ガラス制作と聞いて真っ先に思い浮かぶ、“吹きガラス”も、同じ方法に大別されています。
熱く溶けたガラスを、固まる前に加工していく手法です。

今回ご紹介する「tareru」は、ガラスを吹くのではなく、ソリッド(固まり)のまま加工していく手法で制作されます。

まずは、透明なガラスを“竿”と呼ばれる棒に巻き付けます。
これからガラスを加工するための、前段階です。

吹きガラスでも同様に竿につけて制作をしますが、今回は空気を吹き込まずに、ガラスのかたまりの作品を作成していきます。

この時、溶けたガラスは1200℃。
当然ながら素手で触ることはできませんが、必要な分のガラスを追加したり、形を整える作業が必要です。
ここで、「紙リン」と呼ばれる、濡れた新聞紙や雑誌を用います。
高温のガラスを素手に近い感覚で加工できる、便利道具です。
紙リンで包み込むようにガラスを滑らせて、続く加工のための微調整を行います。

その後、せっかく形を整えたガラスですが、なんと片面を潰します…!

きれいに整えた丸い形が、歪んでしまいました…。
潰した部分の反対面は、きれいな半球のような状態をキープします。

潰した理由は、ガラスの真ん中に色を配置させるため。
水に滲むインクの表現のための、大切な形作りです。
この時に、完成時の形やサイズ、どんな色の表現にするかなどを、綿密に考えながら加工をしていきます。

ここで色ガラスが登場しました。
この色ガラスは、あらかじめ練り合わせて作成していたものです。
これを高温で熱し、ドロドロに溶けたところで、先ほどの凹み部分につけていきます。

細い線を描くように、赤いガラス(温度が高いため赤くなっていますが、実際の色は緑色)をつけていきます。
高温の透明ガラスは、転がしていないと形が崩れてしまうため、2人以上でのチームプレイの作業です。

「この時のつけ方で、中心の色の滲み方、大まかな印象が決まります。
水のかたまりに垂れたような色を表現するため、色の濃さ、混ざり、流れなどを確認しながら、細かい調整を加えます。」

水の中をゆらゆらと漂うような雰囲気を強くイメージしながら、想像が現実になるように、ガラスを転がし、動かし、整えていきます。

調整が終わったら、ガラス全体を温めて、色ガラスを透明ガラスに馴染ませていきます。

色部分が、透明部分と馴染んできました。
この時も、竿を動かす手は止まりません。
ガラスの様子を注意深く観察しながらの作業です。

この工程は動画でもご覧いただけます。
色ガラスの付け方、馴染ませ方だけでなく、手際良い複数人での作業現場の雰囲気をお届けいたします。

色がある程度まで馴染んできたら、今度は透明ガラスを球体に戻す作業です。
先ほど敢えて凹ませた部分に、新しい透明なガラスの種を加えます。
もちろん、これもチームワークによる工程です。
持ってきてもらった透明ガラスを、先ほどの色ガラスが覆われるように垂らしてもらいます。
その後、新旧のガラス同士が馴染んでひとつになるまで、何度も温め、形を整え、を繰り返していきます。
地道に、こつこつと、根気強く、ガラスの形に向き合います。

形の成形がある程度完了したら、“括り目”をつくります。
これは、竿からガラスを切り落とすために、境目部分を細くしていく作業のことです。

「括り目は、竿と同じか、それよりも細く作らないといけません。
そのため、括り目を作る際に作品の形が崩れないよう、慎重に作業を進めます。」

物質を捻ったかのように細く作られた、括り目部分。
これも、いきなり細く作るのではなく、徐々に形を整えながら入れ込んでいきます。

これで、竿によるガラス成形が完了しました。
竿を切り離すために、ガラスが割れない程度まで冷まします。
高温のままだと、その箇所が変形して伸びたり歪んだりしまうため、硬さと柔らかさを見極めたタイミングで、ガラスを切り離します。
形が保てる状態となったガラスを、ここからさらに一晩かけて、ゆっくりと冷ましていきます。

「tareru」制作工程:コールドワーク

ここまでは、ホットワークによるガラス成形の様子をお伝えしました。
「tareru」は、ガラス制作の対を為すもうひとつの技法“コールドワーク”の手法も駆使されて、制作されています。

「固まりの作品は、ほとんどが削る作業もおこないます。
私は普段、ホットワークを主軸として形を作っているため、コールドワークの手法は、主に台に置くための底面を作るときに使っています。」

コールドワークとは、いわゆるガラス細工のことを指します。
熱を使用せず、冷えた状態のガラスの表面に磨きや削りを施して加工する技術のことです。
有名なものでは、江戸切子などがこれに該当します。

関川さんは、吹きガラスの工程時にも、作品を安定させる際に底面にコールドワークを施すこともあるのだそう。
この作品では、どのようにコールドワークが使われているのでしょうか。

この時に使用するのが、平盤と呼ばれるガラス研磨機です。
紙やすりに、荒さによって異なる番号が振られているように、この平盤にも砂の荒さによって異なる番号が振られています。
(中心に配置されている丸い円盤状の部分がザラザラした部分で、ここの荒さを変えることで、研磨の質感を変化させます。)

まずは80番(粗めの砂)を使って、作品の底部分をつくりだします。
どの高さの作品にするか、どの角度にしたいか、底面の大まかな部分を削っていきます。

続いては600番という、非常に細かい砂を使用して、先ほど削りだした断面をきれいに仕上げていきます。

ガラス研磨機は、盤面が自動で回転します。

この削りまでを含めて、いよいよ作品が完成となります。
削った後にできたシルエットまでもが、作品制作においては重要な部分ともなってくるためです。

「ほんの少しの差で、印象がかなり変わってしまうんです。
そのため、削りすぎないよう、慎重に削っていきます。」

ただ削っているだけではわからない、細かなニュアンスも何度も確認します。
周辺の台や机に乗せて、どのように見え方が変化しているのか、自分の完成形に近づいているかを丁寧に確認します。

削っては台に乗せ、削っては台に乗せ。
微細な調整を根気よく続けていきます。

自分の理想とする状態まで削りができたら、最後にバフを施します。
セリウムという素材を使用し、底面に艶を出す工程です。
研磨によってできた微細な傷や付着物を除去して、ツヤツヤにするのです。

さあ、完成です!
丁寧にかたちづくられた「tareru」は、ぜひ会場でお手に取ってご覧ください。

滲み、広がり

もともとはグラスをメインにしてガラス制作をしていたという関川さん。
水の中に広がる液体の滲むさま、垂れる様子を表現したいという想いから、固まりの作品を作り始めたのだといいます。

「ガラスのかたまりという、歪みのあるもので表現したら、インクが漂い、広がる様がより面白く作り出せるのではないかと思いました。
同じ形をつくろうと思っても、ひとつひとつ、その時の私の想いやガラスのほんの僅かな色合いの違いで、表情が全く異なっています。
このかたまりに閉じ込めた浮遊する色合いを楽しむだけでなく、好きな雰囲気のものを探して、見比べてもらえたら、とても嬉しいです。」

なにひとつとして、同じ水の流れがないように。
さざめき、ゆらめき、きらきらとした世界に閉じ込めた、数滴の色の滲み。
その無常の瞬間を留めてあらわす透明の塊は、静寂に流れる時間の経過と、息をのむかのような一瞬の美しさを、同時に纏っているかのようにも感じられます。
あなただけの美しい「交ざり合う一瞬」を見つけにいらしてください。

関川葵 個展 - water –
2023年9月24日(日) ~ 2023年9月30日(土)
12:00~18:30 / 日曜〜18:00 / 月曜休 / 最終日〜17:00迄

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