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休廊日は展覧会により異なります

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京増まどか 色の重ねに、穏やかな時季のうつろいを

2023.07.14

2023.07.14

本日は、7月16日(日)から個展を開催する、京増まどかさんの作品についてご紹介いたします。

作家活動を始めてから今年で15年を迎える京増さん。
長いキャリアの途中には、就職や子育てなどの影響から、思うように制作ができなかった時期も含まれます。
それでも制作を諦めずに到達した節目の年。
いよいよ初の個展を開催されます。

木版画

京増さんが作り続けているのは、木版画による作品です。
木版画は、数ある版画技法の中で、最もポピュラーで馴染みのある技法ではないでしょうか。
日本における歴史も長く、江戸時代に普及した浮世絵も、この木版画によるものです。
木という材質の特徴からか、柔らかな表現や水性絵具による多色刷りにも適しています。
小中学校での図工・美術の時間に、彫刻刀で木の板を彫ったことのある人も多いかと思います。

そんな木版画の作品の中から、今回の個展に出品する水性木版作品「爽風」について、制作過程を伺いました。

下絵

まずは、下絵の制作です。
この下絵は、いわば今後の制作における“設計図”の役割を果たします。
京増さんの作品は多色刷りのため、この段階でどんな色彩を使用するか、何色の刷りが必要か(=版分け)を考えます。

線画で縁取られた各モチーフごとに、綿密な色彩指定の数字が書き込まれている部分にご注目ください。
右側には、色指定の情報だけでなく、使用する版木や用紙サイズなども記されています。

作品のモチーフとなっているのは、昨年5月に訪れたという、京都府京丹後市にある「かぶと山」の風景です。

「新緑の緑がまぶしくて、本当に美しかった。
その時に感じた爽やかな風を、作品として表現したいと思いました。」

かぶと山での景色。
山といっても溶岩からなる円頂丘で、久美浜湾の隣に位置しています。

高く澄んだ空、新緑のまぶしさ。
美しい景色への感動と、そこで感じた爽やかな風を、作品の中に込めていきます。

版の作成

下絵が完成したら、これを版ごとに版木に写していきます。
使用する画材は、マットフィルムとカーボン紙です。
半透明のマットフィルムを下絵に重ねて、モチーフを写しとっていきます。
その後、モチーフをなぞり、カーボン紙で転写をしていくのですが、この時のポイントは、写しとったマットフィルムを裏表逆にすること。
版画は彫ったものと刷ったものが反転されてしまうので、マットフィルムの利点を効果的に使用していきます。

すべての版木にモチーフが転写されたら、お次は彫刻刀で版木を彫っていきます。

下絵で①と指定されていた、黄緑色の色を刷るための版を彫っているところ。
右側に写っている三角刀で、風にそよぐ芝生の表情を細かく掘り込んでいきます。

今回作成する版は、全部で5版。

他の版も着々と彫りあげたら、今度は印刷する下準備として、和紙を湿します。
実はこの作業も、とても大事な工程です。
和紙を湿らせることで、繊維の奥まで色が入るようになり、奥行と深みのある色彩が表現できるようになるのです。
和紙は直接水をつけず、湿らせたボール紙と新聞紙で挟むことで、間接的に水を与えるようにします。

そして、和紙が十分に湿るまでの間に、絵具を混ぜて色を作ります。

下絵の段階で構想した色合いを作るため、微妙なさじ加減で色彩を作ります。
細やかな調整の痕跡が、画像から読み取れます。

刷り

版木、和紙、絵具の準備が出揃いました。
いよいよ、刷りの作業です!
版目に絵具、和紙の順番に重ねたら、バレンを用いて刷りあげていきます。
今回は5版作成しているので、言わずもがな、同じ和紙には5回の刷りが施されます。

色が重なり合わない箇所同士で、同一の版が使用されていますね。
1色につき1版というわけではないところが興味深いです。

刷り上がった作品を乾燥させたら、完成です!

「爽風」
空の部分にうっすらと現れているのは、木目の跡でしょうか。
素材と技法の特徴が付加され、柔らかな世界観が表現されました。

「バレンを置いて、版から紙を持ち上げた時、思いもよらなかった木の魅力が刷り取られていることがあります。
感動でゾクっとしますね。」

京増さんが感じる木版画の魅力の一片が刷られた「爽風」。
その感動体験を、ぜひ会場でご覧いただく実物から追体験いただけましたら幸いです。

暮らしの彩り、心の豊かさ

「暮らしに彩を 心に豊かさを」。
京増さんが作品を制作するときのテーマとしている言葉です。

皆様がご存知のとおり、この3年間は未曾有のパンデミックによる不安や精神的疲労が続く時期でした。
加えて、世界情勢や異常気象、はたまた身近な環境変化などから、京増さんにとっても心の疲れを実感する瞬間が度々あったといいます。
しかし、変化していくこともあれば、変わらずにありつづけることもある。
子どもの成長。
季節のうつろい。
日常が続くこと。
変わりゆくものであったとしても、その変化の様が変わらずに訪れるという穏やかな事実が、京増さんにとっては安心できるものでした。

日常のなかにある、ささやかな変化のよろこび。
木々が芽吹くこと。
空が高く、吹き抜ける風が心地よいと感じる瞬間。
虫の鳴き声。
そんな、季節が巡りゆく様、自然のおおらかさを感じとれることを、京増さんはモチーフを選ぶうえで大切にしています。

「日々の暮らしを明るく彩り、心を豊かにしてくれるのが芸術だと思っています。
特に木版画では、自分が制作する上でこだわっている“色の調和”が柔らかく表現できるところも、好きな部分、良い部分だと思っています。」

ご自身が感じる心の豊かさ、日々を明るく彩るものを、見てくださる人にも届けたい。
そして少しでもほっとしてもらえたら嬉しいと語る京増さん。

「版画は複数性の特徴から、本物であっても手が届きやすい値段で提供できるところも魅力だと思います。
背伸びをせず、自然体で芸術を身近に感じていただけたら嬉しいです。」

今回の個展では、開催時期にあわせて、穏やかで清涼感のある作品の数々が並びます。
初夏から夏、そして秋の訪れをひっそりと感じとれるかのような作品を選びました。
堪えるほどの暑さの時期、作品からそよぐ爽やかな風が、穏やかな心地にさせてくれることでしょう。
京増さんが感じとる繊細な季節のうつろいを、作品を通じて共有する機会となりますように。

京増まどか 個展
2023年7月16日(日) ~ 2023年7月22日(土)
12:00~18:30 /17日(月祝)営業・19日(水)休/ 日曜〜18:00、最終日〜17:00迄

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