丸橋正幸 × 岡田佐知子 -きらら- 開催中です!
- 制作の現場から
2024.01.17
〒101-0031東京都千代田区東神田1-13-17 森ビル1F
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OPEN 11:30 CLOSE 18:00(最終日17:00)
休廊日は展覧会により異なります
03-6206-0811
2023.07.18
本日は、7月30日(日)から開催されるグループ展「SSW EXHIBITION 2023 -Moontan-」に出品される、先崎涼香さんの作品についてご紹介いたします。
毎年夏に開催される「SSW」=Selected Small Works。
ギャラリーがセレクトした作家の小作品が一同に集まる、恒例のグループ展です。
今年のテーマ“Moontan”は、クラシックギターで有名なアンドリュー・ヨークの名曲からタイトルがとられています。
日焼け=Suntanを変化させた造語で、焼き付ける日光とは対をなす、月光の神秘的な魅力を表すような曲となっています。
このテーマイメージから作家各々が連想した、Moontanにふさわしい作品の数々が並びます。
出品作家のお一人である先崎さんは、SAN-AI GALLERYグループ展ではお馴染みの作家さんです。
昨年のSSWや、毎年2月に開催される猫展でも、作品を展示されています。
身近な物事をモチーフに作品を制作することが多いという先崎さん。
日々の暮らしの中で見つけた、好きなもの、愛するものを、丁寧に観察し、時間をかけて描くことを常に心がけているそうです。
そんな先崎さんの日常から生み出された、愛すべきものたちの作品を、ここで数点ばかりご紹介いたしましょう。
まずは、「ししまる山に月がおちて」。
大学では油絵を専攻していた先崎さんですが、最近では油絵以外の画材を使って作品を制作することが多いのだとか。
「油絵は準備も後片付けも大変なので、もっと気軽に絵を描けないかと思って…。
そんなきっかけから、チャコール鉛筆を使って作品を描きました。
初めての画材でまず描いてみたのは、やはり我が家の猫・獅子丸です。」
獅子丸くんはご覧の通り大きくて、毛もふさふさ、もふもふ、どっしりと威厳ある猫ちゃんなので、そのイメージを可愛らしくデフォルメして出来上がったのが、この作品です。
この作品には、実はこんな物語がついています。
「人々は山のふもとに家をたてた。
だけどそれは山でなく、ものすごく巨大な猫だった。
夜がふけて、ししまる山に月が落ちると、闇夜にあやしく目が光る。
何をするでもされるでもなく、ただ静かに家を抱えている。」
実際の作品を前にする時には、ぜひこの物語を思い出しながらご鑑賞ください。
モノクロに描かれた作品が、いきいきと動き出すかのような、楽しい心地を感じさせてくれます。
まるで絵本の挿絵のようにも思えてきますね。
次にご紹介するのは、「水面」という作品です。
手の先から波紋が生じているかのような、不思議な光景が描かれています。
どこまでも続きそうな黒い背景と、吸い寄せられるかのような月の表情が、静かな魅力を湛えます。
この作品は、今回の展示テーマ”Moontan”からイメージを膨らませた作品です。
「月そのものを描くよりも、人の心に作用するような、心象的な月を描けないかと考えていました。
そんなとき、湯船の中に映る丸い電灯が、水面に反射した満月の光景と重なったんです。」
水面に映る満月。
その月を触れようとする手の動き。
そこから生じる、広がりゆく波紋。
そして、手や水面から、形を変えてするりと逃げていく月の姿。
このモチーフを描く時に、同時に思い浮かんだ光景が、カモが池を泳いでいる姿でした。
「春先に森林公園を散歩していたときに、池で泳ぐカモを見つけました。
水面をスーッと移動する様は、可愛くもあり、大きな船が進むような勇ましさもあり。
カモから波がおきて広がり、その水面に日が当たってキラキラする様が美しくて。
この時の水面の美しさと、カモがつくりだした波の広がりを、月のモチーフでできたら面白いかなと思いつきました。」
刹那的な水の動きや、映り込んだものが波紋によってどう変化するのか。
何度も水面に手を滑らせ、写真を撮り、動画を撮影します。
時間をかけて対象をよく観察することは、先崎さんが作品を作る上で大切にしているポリシーです。
作品にリアリティを持たせるために、対象を深く、細部まで捉えるように意識します。
「残念ながら波紋を追求は、速くて結局よくわからず…。
そのため、この作品は、カモの進む水面の広がりを懸命に思い出しながら描いた作品です。
リアルさというよりも、イメージの作品となりました。」
ご鑑賞の際は、水面のゆらめく様を想像しつつ、その光景を作品と重ね合わせながらお楽しみください。
そしてもうひと作品、「アゲハ蝶」。
この作品は、先にご紹介した「水面」から着想を得て、さらにイメージを膨らませた作品です。
確かに、暗い背景、丸い月、手のモチーフは、「水面」と同じです。
しかし唯一異なる部分が、水面の波の広がりではなく、手に吸い寄せられるかのように、蝶が描かれていること。
先崎さんには、完成した「水面」に描かれた波の広がる形が、蝶に見えたのだとか。
「家庭菜園が趣味で、レモンとみかんを育てています。
それらには毎日アゲハ蝶が飛んでくる(柑橘の木を好み、産卵にやってくる)んです。
アゲハ蝶は常世(とこよ※)の虫とも言われています。
そこから、何か神秘的な世界へ案内してくれるような、そしてその世界への憧れの想いを、作品としてイメージしました。」
(※とこよ:“かくりよ”とも呼ばれる。永久に変わらない神域を指し、死後の世界ともされる。)
先崎さんにとってアゲハ蝶は、丹精込めて育てているレモンを、幼虫がすべて食べ尽くしてしまうという、やっかいな存在なのだとか。
しかし作品に描かれるアゲハ蝶は、一変して、神秘的な夜の世界を案内するかのような、幻想的な優美さを私たちに伝えます。
こちらの作品は、制作中の様子を動画としてもご覧いただけます。
下記リンクより、ぜひ鉛筆で描かれていく蝶の姿をお楽しみください。
動画にある作業だけでは、まだ完成には至りません。
この後、さらに2回、鉛筆で塗り重ねていくことで、より黒い画面を演出していきます。
そして、これだけでは埋まりきらない、細部の箇所にも、さらにHB鉛筆を使って黒く埋めていきます。
鉛筆という画材も、黒く塗りつぶすという行為も、私たちが行うものよりもずっと丁寧に、そして想像するよりも丹精に、時間をかけて行われていることが、ひしひしと感じられます。
好きなもの、愛するものを、描くこと。
作品によく登場するモチーフは、趣味である家庭菜園やきのこ狩りから着想を得ているという先崎さん。
それから、子どもの時からずっと一緒に暮らしている猫の姿も、大切なモチーフのひとつです。
「愛するものを、よく観察し、時間をかけて、描く。
描くことでまた愛が生まれ、その愛から、絵の中の世界にリアリティが出てくると、私は信じています。」
身近にある大好きなものたちは、作品のイメージとして常にインスピレーションの源泉となっています。
先崎さんが日々に触れる、愛するものたち。
惜しみない愛情と、かけられる時間から生み出された、相乗的な愛すべき作品の数々を、ぜひギャラリーにて直に愛(め)で、感じていただければと思います。
SSW EXHIBITION 2023 -Moontan-
小倉ゆい 柴田貴史 瓜生剛 先崎涼香 平丸陽子 松浦カレー
2023年7月30日(日) ~ 2023年8月5日(土)
12:00~18:30 /月曜休 / 日曜12:00〜18:00、最終日〜17:00迄