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5 ARTIST:下河智美 同一のなかの差異

2023.06.18

2023.06.18

本日は、6月27日(火)から開催されるグループ展「5 ARTIST」に出品される、下河智美さんの作品についてご紹介いたします。

本記事でご紹介する下河さんの作品は、シルクスクリーンによるもの。
鮮烈な逆光を浴びるかのような植物のシルエットに、淡く発光するかのような色彩が、湧き出るオーラのように滲み出ます。

シルクスクリーン

版画の技法のひとつである、シルクスクリーン。
そもそも、シルクスクリーンとは?
Tシャツのプリントや、CD盤面のインクなど、実は身近なところで使用されている印刷技法です。
世代が限定されてしまいますが、1970年後半から大ヒットした家庭用印刷機“プリントゴッコ”が、まさにこの手法を取り入れたもの。
日本語では“孔版印刷”と書き、“孔=穴”を通過するインクを印刷させている技法です。
孔といっても、布地の細かい網目を想像していただく方がわかりやすかと思います。
この網目の版に、描きたい形の部分はインクが通過するように、逆にインクを乗せたくない部分は通過させないように加工をして、印刷物から少し浮かせた状態でインクを刷ります。
絵の具を漉(こ)している、という感覚が近いかもしれません。

こうした特徴から、他の版画技法とは異なり、刷り上がったものが反転しないという利点があります。
また、インクの厚みを用いた表現や、透明度の少ないはっきりとした色彩を出すことも可能です。

この、インクの厚みを活かした表現が、下河さんの作品にとってはポイントとなってきます。

“重ねる”

技法を確認したら、いよいよ実際の作品制作過程を見ていきましょう。
モチーフを彩る、ニュアンスのある色彩の表現方法をご覧ください。

百合の花のようにも見える、凛とした一輪の植物。
最初の画像は、すでに同一の版(=植物のモチーフ版)を用いて、白のインクをなんと30回以上も重ねて刷ったものに、さらにベタ版(色のある版)で2版刷った状態のものです。

植物の部分が盛り上がり、一見すると金属作品のようにも感じられますね。

「油性のインクを使用しているため、水性のインクと比べると厚みがでます。」

斜めから見ると、インクによる凹凸の感じがよくわかります。

この凹凸がとても重要であると、下河さんは語ります。

「インクで厚みが出たものの上にベタ版を刷ることで、凹凸にインクが溜まり、色による独特のニュアンスを作り出しています。」

あたかも、色彩によって陰影の強調がされているかのようです。

そして最後の一版を重ねていきます。
こちらの版は、青緑のような色のインクを使用します。

メジューム(=無色透明の少し柔らかいインク)を多めに混ぜることで、とろみのある淡い色彩を表現します。
最後の青緑を、まさに乗せようとする瞬間。
シルクスクリーンが印刷される機材が見られるのも、興味深いですね。

「インク溜まりを作りたいので、スキージ(ヘラ)を寝かせた状態で刷っていきます。
こうすることで、通常よりもインクが多く落ちるようになります。」

実際に青緑が載せられた状態。
先ほどとはイメージが変わり、色に深みが加わりました。

青緑が加わることで、さらにモチーフの凹凸が際立ち、作品に奥行きがでています。

モチーフのアップ画像。
インク溜まりや、モチーフの凹凸がはっきりと確認できますね。
完成した全体図。
何層にも重なった厚みある白色部分を、3色の色彩の層が覆います。
凹凸に入り込む色彩が、意図して色ムラのようにも現れ、作品の存在感とニュアンスを高めています。

モチーフの中心が白色だからでしょうか。
RGB(光の三原色)のようにも捉えられる色彩の連なりが、脳裏に焼きついて離れない、光の残像イメージのような印象をも想起させます。

反復行為と差異性

版画は同じモチーフの版を使えば、いくつも同じ作品を作り出すことができます。
しかし、本当にそれらは“同じ”作品と呼べるのでしょうか。

描かれているものが同じであっても、インクの重なり方、色の広がり、濃淡…。
ひとつとして“まったく同じ”というわけではありません。
また、力の入れ方や、周囲の環境(例えば天候や湿度の違いなど)、もしかしたら作家の心身の状態でも、作品には多少の違いが生まれるかもしれません。

こうした微小な違い=差異を、下河さんはご自身のテーマに据えて制作しています。

「作品を制作するにあたり、同一的反復行為による差異性をテーマにしています。
これはマクロ的視点(大きな視点)からもミクロ的視点(小さな視点)からも当てはまるテーマだと思っています。」

版画という技法の特質である、同じ作品がいくつも作れる反復性。
同一の動作、モチーフ、素材でも、その連続性の中では、ひとつとして同じものが生み出されないという、僅かに生じる差異。
むしろ、その差異こそが、下河さんが作品を通して表現したいものであり、追求しているものなのでしょう。
シルクスクリーンという技法は、この“同じであって、その実(じつ)は異なるもの”を表現する、うってつけの技法なのです。

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5つの異なる素材や技法の特質が際立つ、5 ARTIST展。
その中でも、版画の特徴である「重ねて刷る」部分にフォーカスして、その特性を強調する作品をご紹介いたしました。
独自の表現技法がぶつかり合い、ひとつの展覧会として調和していくその様は、観る人にとっても新鮮で刺激のある空間を体感できることでしょう。
驚きと発見に満ちる作品の数々を、ぜひ体感しにいらしてください。

5 ARTIST
寺松尚美 下河智美 毛塚多恵 大塚里久 阿部日向子
2023年6月27日(火) ~ 2023年7月8日(土)
12:00~18:30 /月曜休 / 日曜12:00〜18:00、最終日〜17:00迄

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