〒101-0031東京都千代田区東神田1-13-17 森ビル1F
Google マップで見る >

OPEN 12:00  CLOSE 18:30(土17:00、日18:00)
休廊日は展覧会により異なります

03-6206-0811

OPEN
12:00
CLOSE
18:30
(土17:00、日18:00)

休廊日は展覧会により異なります

輪島明子 自然の灯と透明な世界を廻って

2023.05.16

2023.05.16

本日は、5月21日(日)から個展を開催される、輪島明子さんの作品についてご紹介いたします。

輪島さんが制作するのは、ガラス作品。
透明で繊細なイメージを抱きやすいガラスという素材でありながら、輪島さんの作りだす作品からは、ブレのない芯のような信念と、確固たる存在感が内包されているかのような印象を抱きます。

炎、広大で揺るぎない自然

輪島さんの作品を表すキーワードは「炎」、そして「自然」です。

数あるガラス制作技法の中でも、「ホットワーク」と呼ばれる技法を主軸として制作を展開する輪島さん。
ホットワークとは、熱でガラスを溶かして成形を行う手法を指します。
一般的にイメージされる、“長い管に息を吹き込み、形を整えていく”ガラス制作の光景も、このホットワークによるもの。

「家でも、仕事でも、自然の中でも、“炎”は私にとって欠かせない存在です。」

ご自宅での輪島さん

もともと自然が大好きだったという輪島さん。
経歴を伺うと、なんと大学では林業を専攻されていたのだとか。

「環境問題に興味があり林業を志しましたが、全く肌に合わなかったんです。
そんな時に、偶然テレビで吹きガラス工芸の制作風景を目にしました。
興味を持って、講座でガラスを習い始めましたが、さっぱり思うように作ることができなくて。
もっと上手になりたい、と取り組んでいるうちに、今では私にとって最も身近な表現方法となりました。」

林業から一転、心を奪われたガラス制作をつきつめるため、ガラス工房に就職。
そしてデンマークにあるガラス工芸専門学校をご卒業されます。
その後、日本でもガラス制作を続けるため、富山県にあるガラス工房を活動拠点に選びます。

「留学中には、ノルウェーで登山を体験しました。
帰国後も山登りをしたいと思っていたので、富山はちょうど良い立地でした。
独立し、結婚、出産を経た現在でも、富山の地で、自然と共に暮らしています。」

子育ての一環で山に登り、森で遊び、そして夏には海、冬にはスキーをして過ごす日々。
そこで触れ合う自然から得た力強いインスピレーションが、ガラス制作の中に息づきます。
自然を身体中に取り込み、研ぎ澄まされた感覚から溢れ出る鮮烈な情動が、作品の中に閉じ込められていくのです。
ガラス制作と自然の存在が、輪島さんの中で循環し、相互作用を伴いながら日常を形づくります。

「分子」 炎、自然のなかの風景

記事の後半では、輪島さんが制作展開されているシリーズ作品をご覧ください。

まずは「分子シリーズ」。
こちらのシリーズには、今回の個展DMに掲載している作品も含まれています。

DM掲載作品「熾火(おきび)の分子」
熾火とは、着火した薪や炭の芯の部分が赤く静かに燃えている状態を指す語。
「子どもたちと毎週通った森の炭焼き小屋(小屋の中に囲炉裏があり、暖をとったり調理が出来る)の解体が決まり、自分の中でいかに炎というものが大切かを身に染みて感じた結果、制作したものです。」

今から9年前、理化学用の丸底フラスコから着想を得て、分子シリーズは生まれました。

自然をぎゅっと凝縮したかのような色彩を閉じ込めた複数のガラスオブジェが、リズミカルに重なり合いながらひとつの作品を構成しています。

「色とフォルムの重なりあいによる一つの風景の表現を試みています。」

額縁から張り出した板ガラスに、絶妙なバランスでオブジェが配置され、板ガラスを透過するかのように設置されているもの、一見すると転がってしまうのでは、と思うものも見受けられます。
しかし、これらの構成ピースは、すべて土台となる板ガラスに接着され、動かないように固定されているとのこと。
ガラスの持つ美しさを、絵画的に楽しんでほしいという願いが込められた、「立体絵画作品」です。

この制作過程で一番面白いと感じる瞬間は、ピースの位置を決める時なのだとか。

「直感と忍耐力を使いながら、私が見て心地よいと思うバランスを探します。
自然の中の風景のような、視覚的に心地良く感じることを大切に制作しています。」

「みなも」 水、流れ、ゆらめき

お次は、「みなも」というシリーズ。

「湧水を辿る」

ガラス作品特有の気泡と、色のついた幾つもの小さな球体が内包されています。
素材の特徴である透明感が閉じ込められた、美しい作品群です。

「もともと“水”や“流れ”に関するものも好きなんです。
水槽を覗き込んだ時の立体感や、水辺が光を反射して映るゆらめきの光景が、この作品のインスピレーションとなっています。」

制作の意図としては、ガラスの内側の世界を覗き込んだとき、ふっとガラスに意識が入り込むかのような瞬間が表現できないかと試行錯誤した結果、球体を並べる表現に行きついたのだとか。
現実が物質に溶ける、一瞬の不思議な感覚を作品で具現化している、幻想的な作品です。

このシリーズは、特徴である“泡”と“光”との相性が良いため、LEDと組み合わせた作品も展開されています。
今回の展示で出品されるのか、とても気になりますね。

「うつわ」 ”光”を見出す日常を

最後に、器の作品について。
生活の中にも手軽にガラスを取り入れてほしい、との想いから、最近は器の制作にも力を入れている輪島さん。

「天之川ロックグラス」
「ガラスがあることで、生活の中に“光”を呼び込むことができるのでは」との想いから、制作をされた器作品です。

「私はガラスそのものが好きで楽しいので、使いやすさというよりは、面白さで器を制作しています。
食、生活、ひいては命、そしてそれを入れるものとしての器に、興味があるのです。」

ガラス制作に熱意を傾ける輪島さんならではの、“自分の生活の中で心地よいもの”の感覚を主軸に、器のシリーズが展開されていきます。

工芸の魅力は、自分の表現したいものが自らの手の中で作品となり、形となって、人々に提供できるところだと、輪島さんは語ります。

「ガラスの素材が持つ、「透明性と不透明性」「柔らかさと硬さ」という不可逆的な魅力を、どう活かすことができるのか、作品に反映できるのか。
常に素材と向き合いながら、制作に取り組んでいます。
そんな私の作品を覗き込んだ人が、そこに閉じ込められた光を感じることで、ご自身の中の希望に触れるような、そんな表現ができたら、と思っています。」

自然の一端をガラスに詰め込んだ、輪島さんの作品たち。
透明な世界に忍ばせた希望の光を、どうぞ展覧会でご高覧ください。

輪島明子 展
2023年5月21日(日) ~ 2023年5月27日(土)
12:00~18:30 /月曜休 / 日曜〜18:00、最終日〜17:00迄

Page Top